こぼれ話 その468 古きもの、麗しきもの 2017.7.31

2017/07/31

往診で色々なお宅に伺う。おばあちゃんのお孫さんが練習していたと思われるアップライトピアノのあるお宅。
古い畳が擦り切れていて、その上にダイアル式の黒電話のあるお宅。
かつて奥さんをバイクの後ろに乗せて、ご主人が運転して二人で通院していたバイクが玄関先においてあるお宅。
それぞれのお宅に歴史があり、楽しき日はもちろん、苦い日々もあったと思う。

 

ある朝、出勤の時に歩道を歩いていて交差点にさしかかった。
前を歩く初老の男性が立ち止まり、ふと斜め後ろを見上げるように振り返った。
そして左手を上げて振った。男性の視線の先には、マンションの外廊下でにこやかに手を振るご婦人の姿があった。
夫が玄関を出て、奥様が見送り、夫が振り返って手を振るまで、4,5分はかかりそうな距離である。
歩道の夫の姿を見守りつつ、夫が振り返るまで奥様は戸外で待っている。
麗しき生活の現在進行形である。

 

5月のこと、高知市の中央公園で行われていた古着バザールに通りがかった。
露天商のようなスタイルで、婦人用の洋服がたくさん売られている。
洋服の露天商のそばで、古物商も店開きしていた。
手回しの鉛筆削り。散髪屋の手動のバリカンと、髭剃りのクリームを練った二槽の白い陶器の入れ物。
龍馬さんの像に昔の高知市内の白黒写真。缶詰を空ける機械にかき氷を作る機械。
古い道具を見ていると、使った人々の風景が浮かぶようで、想像が膨らんでいく。

 

夏休み真っ最中、高知市の土曜夜市は大変な賑わいだ。
今年は7月の2回で終わってしまうらしいが、昔のクリスマスの頃の人出がアーケード街に戻ったかと思えるほど、
いやそれ以上の混雑で、特に小さな子供連れが多かった。
射的や大きなパチンコ台、フランクフルトや焼きそばなどの食べ物。
汗で髪が額にへばりついた子供たちの心に、しっかり思い出は焼き付いたことと思う。
我々の郷愁を次の世代の思い出に。